シャローム埼玉について

介護について

「最後のステージ」へ向けて

「揺り籠から墓場まで」はイギリスの社会福祉において提唱された言葉です。私たち社会福祉法人シャローム埼玉では「高齢期から墓場まで」を事業目標として展開させて頂いております。平成22年1月には法人墓地を整備いたしました。様々の事情で遺骨の引き取り手の無いご利用者様が出て来ています。すでにお一人の方が利用されています。

私たちはこうした高齢者介護事業をとおして、その人生の最後のステージのお世話をさせて頂くことの幸いを感じています。同時に、残された最大の課題に取り組む必要に迫らていると感じています。それは「生から死」への支援です。所謂、「看取り介護」です。  私共がその人生の最後のステージのお手伝いをさせて頂くのにどうしても困難なこと、それは介護の技術や支援だけでは人生の終末に対応できない事実です。

人間の命の終焉に当たって医療のかかわり無しに通過することはできません。死亡診断書は医師、又は歯科医師以外に書くことはできません。この意味で、介護に携わる者として最期までお世話したいと願い、ご本人様やご家族様も「このまま施設で」と願いつつも最後には病院で死を迎えざるを得ない状況です。私たちが「高齢期から墓場まで」と言っても、厳粛な「死に至るステージ」には殆どの場合、介護は立ち会うことができません。

今回、クリスチャン医師の鋤柄稔先生が私たちのビジョンをご理解くださり、「シャロームにっさい医院」を隣接地に建設し「看取り介護」に協力して下さることとなりました。

様々の人生を生き抜いてこられた大先輩である高齢者の方々に、施設での生活を安らか(シャローム)に生活して頂き、特に、ご希望される方が、この「看取り介護」体制の整備によって、ご本人様、またご家族様にとって「ここが人生最善の終結の場であった」と言って頂けるように努力して行きたいと願っています。

「シャローム・ガーデン坂戸」の看取り介護について

-- 不安が除かれ、安心して看取り介護が提供出来る為に --

はじめに

社会福祉法人シャローム埼玉は、平成11年に特別養護老人ホーム(50床)を始めとした各種の介護事業を展開してきた。
創設当初は、入所されているお年寄りは加齢と共に病状が悪化すると病院へ入院、そのまま死去される事が大半でありました。その後入居者の高齢化、重症化 に伴い特養は「終の棲家」としての機能を求められるようになり、人生の最後を住み慣れた場所で馴染みの人達に囲まれて送りたいと願う方々が増えてきまし た。施設も地域の要望に応えるべく増床(定員81床)し現在多くの方々に利用していただいています。
平成23年4月、隣接地にシャロームにっさい医院(糸川かおり院長)が開設、鋤柄稔医師の協力も得て、創設当初からの夢であった「看取り介護」を開始することができました。
「看取り介護」は、本人及び家族、医療、施設との円滑な連携プレーが何よりも大切とされますが、個人の尊厳を尊重しより質の高い「看取り介護」の提供の為に職員は日々研鑽を積んでいます。

当施設の看取り介護の概要について

看取りとは、近い将来確実に死が訪れる人に対して、残された日々をその人らしく、豊かに安らかに暮らしていただく為の援助であり、人生の終焉への橋渡しのケアであります。
死は特別なものではなく日々の暮らしの延長線上にあります。最後まで本人、家族の意向を尊重し、看取りステージに応じ豊かな暮らしの援助と、安らかな死への橋渡しのケアであります。

当施設の看取りケアマネジメント
  1. 入所時に「看取りの指針」「いのちの事前確認書」を説明、配布し最後の時の意向の確認をします。
  2. 全身状態低下傾向の利用者を主治医に報告、ご家族に病状説明していただきます。
  3. 最後の時の意向の確認をします→危篤時に救急車を呼ぶのか、それとも施設での看取りを希望するのか確認します。
  4. 看取りを希望の場合は、「看取りの同意書」に署名して頂きます。
  5. 看取りの指針の説明、施設で可能な医療処置や危篤時の対応、宿泊等の説明をします。
  6. ご家族、他職種参加のカンファレンスを開催して、ご家族のご希望も伺い「看取り介護計画」を作成・説明して同意を頂きます。
  7. 看取りケアの提供をします。

看取り介護の基本姿勢

  1. 豊かな生と、安らかな死への橋渡しの役割
  2. 一人じゃないよ(孤立感を感じさせない、コミュニケーションの確立)
  3. 平安、シャロームの旅立ち
ケアのポイント
  1. 苦痛や不安の除去
  2. 症状変化への緻密な観察
  3. 医療、他職種間の円滑な連携
  4. 個人の尊厳、自立性の尊重
  5. 家族支援(グリーフケア)

看取り介護の三者の連携

看取り介護は、ご家族、医療、施設との三者の連携がとても大切です。看取りの中心はあくまでも本人及びご家族であり、医療や施設(職員)は、それを側面から支援していく働きであります。
特に施設の役割は、1.施設方針の明確化 2.職員の意思の統一 3.看取り体制及び夜間24時間オンコール体制の整備 4.他職種間の情報の共有と円滑な連携プレー等が挙げられます。

看取り期のステージについて

(第一ステージ) 死期を予見する状態変化の出現期
  • 水分、食事量が低下し全身状態も衰弱、医師の説明と最後の時の意向の確認
  • 残された日々の生活を豊かに、その人らしさを大切に、安らかな死の準備期
(第二ステージ) 危篤時で、介護、看護等の医療の介入期
  • 全身状態が著しく低下し、バイタルも不安定で様々な重篤な症状が出現期
  • 密なる観察と訪室、医療との連携強化、不安や苦痛の軽減、最後の一息を一緒に見守り、安らかな死への橋渡しをします。看取り医師による死亡確認をします。
    *最後の時は、救急車は呼ばず看取り医師に連絡します。ご家族は来園して最後の一息をご一緒に見守らせて頂きます。
(第三ステージ) 死後のアフターケア
  • エンジェルケアの実施
  • 葬儀への支援、荷物他の整理の援助
  • 悲しみの中にある家族への配慮、グリーフケア、ホーム正面玄関からお見送りします。

おわりに

当施設で実施された「看取り介護」の実践報告をします。

E様(95歳)

癌の末期、痛みが強くなり食事量も減少、ご家族の差し入れバナナは大好物、「危篤時でも救急車は呼ばずシャロームで最後を送らせたい」とのご希望で、看取りの同意書を交わして一か月後に死去、施設で最初の看取りでした。

K様(94歳)

テレビの国会中継がお好きな方で、食事量が減少、衰弱されても最後までご自分の意思を貫いておられました。召される前夜はご子息が泊られ静かに息を引き取りました。職員はK様が大好きな歌謡曲のテープを流してあげました。

N様(104歳)

何度か入退院を繰り返すがいつも奇跡的に回復、施設の仙人的存在。同意書を交わした直後、海外出張の多い長男の面会を見届けると笑顔で旅立って逝かれました。ご家族の希望でキリスト教式の葬儀を施設で行う。讃美歌と多くの孫、曾孫、やしゃご、職員達に囲まれ感動的な別れの時でした。

N様(87歳)

看取り希望であったが同意書を交わす間もなく急変、看取り医師が死亡往診しました。

S様(94歳)

看取り医師の定期の回診を受けて数日後急変、寿命と悟ったのか静かな旅立ちでした。

Y様(89歳)

いつも腕を組んでにこやかに徘徊されていましたが、一過性の意識消失で受診、すぐに回復し施設に戻って来られましたが、夜間に再発、帰らぬ人となりました。

K様(86歳)

認知症の進行に伴い食事摂取が困難となる。三か月余りの長い看取りでしたが職員の手厚いケアを受け小康状態。最後の時は京都在のご子息、妻も宿泊され傍らで看取られる。恩師を慕う教え子の面会を受けると、讃美歌の調べに包まれ静かに旅立たれて逝かれました。

M様(86歳)

入院中食事が摂れない為胃ろうを勧められるも、奥様は拒否され「施設で最後を送らせたい」と退院されました。1週間程は食事も自力で召し上り回復の兆しも見えてきましたが帰らぬ人となりました。奥様の願いで一度ご自宅に戻られてから斎場に行かれました。

SK様(87歳)

脳梗塞で入院、嚥下機能不全で胃ろうを勧められたが、ご家族は兄弟会議を開いて「母親には苦しい思いをさせたくない」と、施設での看取りを希望されました。
大好きな西瓜をゼリー状にして、最初の一口は医師やご家族も見守りるの中で提供、しました。ゴクンと飲み込まれる姿に感動、最後の数日はご家族もお側に 宿泊され静かに旅立たれて逝かれました。後日ご家族が「シャロームの看取りは評判どうりの心温まる素晴らしいものでした。」と感謝のご挨拶に来園されました。

 

ST様(92歳)、AH様(94歳)、NK様(92歳)、SY様(94歳)、と紙面の都合で詳細の報告は省かせて頂きますが、どの方々も最後までその人らしく個人の尊厳が尊重され、愛するご家族や職員達に見守られて、平安のうちに天国へ旅立たれて逝かれました。

以上、13人の方々の当施設での「看取り介護」の実践報告であります。

最初は不安でいっぱいであった職員も、症例を重ねる度に自信を持ち、他職種が個々の役割りを自覚して精一杯の看取り介護が提供出来たと思います。
ご本人やご家族の笑顔や感謝の言葉に触れる時、職員一同大きな力と慰めを頂きました。
その人の人生の最後に「ああ~ 私はここで、シャロームに来て良かったのだ、人生の最後にあなたに出会えて良かったのだ」と言って頂けるような、さらに質の高い「看取り介護」の提供を目指して、日々研鑽を積んでいきたいと思います。